
ねえカレーマン、あたしすごいことに気付いちゃったんだけど。

へえ、どんなことや?

ヒ素は「希少」ではなかったの記事で、林家ヒ素の希少性が崩れた話をしたわよね。

したな。

確定審一審では、林家ヒ素とカレーヒ素は「製造段階が同一」、つまり
同じ工場で同じ日に作られたから組成がこんなに「酷似」しているのだ、違う日に作ったヒ素はもっと別のかたちになるのだ
という話だったのに、再審になって否定されたわ。



されたな。
「同じ工場で同じ日に」という前提が崩れたのだから

林家ヒ素とカレーヒ素みたいに「酷似」しているヒ素はよそにもある、となった。

なった。

ということは……。

ということは……。

「酷似」なんていう判定だと不十分になったってことじゃない? 「同じ工場で同じ日に作られた」という希少性を立証する証拠が否定されたんだから。

よく気づいたな。そういうことや。「同じ工場で同じ日に」とまで言うから、そんなに希少なものならってことで
厳密にはGはA由来とまでは立証できてないが、和歌山・大阪の地域で同じ組成のヒ素も見つかってないし、まあA由来と考えていいだろう(意訳)
と判断されていたわけやしな。


そうよ。たとえば「他の工場で1週間ちがいで作ったヒ素も同じ組成になる」とかだったら、Gは他のドラム缶由来の可能性も出てくるわけだから、A由来とみていいだろうという見立ては通用しなくなるじゃない。

しなくなるな。Aは本当にG由来なのか、あらためて異同識別をせなあかんで。
もう一歩ふみこんだミクロな異同識別が必要だ

そうなのよ。裁判所は「酷似」というけど、もう一歩ふみこんだミクロな異同識別が必要になるわ。このイメージ画像がわかりやすいわね。左が検察側の主張、右が弁護側の主張よ。



検察側のイメージはそのまんまや。GはA由来であると。一方で弁護側のイメージは、AとGが「こんな近くで生産された別物(別ロット)」である可能性を可視化したものや。
【筆者注】もちろん、GがA由来でないとなれば林眞須美先生は無罪です。

河合潤博士も言うように、「こんな近くで生産された別物」である可能性もあるんだから、科警研鑑定のレーダーチャートも中井鑑定のスペクトルも大雑把すぎるわ。


【筆者注】林家の台所のシンク下プラ容器のヒ素(F)は、微量すぎて科警研は分析していません。

中井鑑定は、「希少ではなかった」の記事で言ったように、「モリブデン、スズ、アンチモン、ビスマス」の4つの微量元素のスペクトルのかたちが似ているってだけの、中井教授本人も言うてはるように「ゆるい条件」の鑑定やった。
とてもじゃないが、「こんな近くで生産された別物」なんていうミクロな違いはわからへん。

科警研鑑定もおなじね。ICP-AESという河合潤博士も評価する機器で分析したのはいいけど、得られた数値の対ヒ素比を「100万倍して対数をとる」という操作をしてレーダーチャートにプロットした。
対数を使うって、CDの売り上げ100万枚の週と100枚の週みたいにデータの差が大きいものを一つのグラフでなるべく矛盾なく可視化するためのものよ? そもそもミクロな違いを比べようという趣旨ではないわ。

中井鑑定も科警研鑑定も、林家ヒ素とカレーヒ素が同一であることを可視化したいあまりに結論ありきになったとしか思えへんな。
取り分けると濃度が上がる〝魔法の紙コップ〟

そこで問題は、科警研がICP-AESで分析した生データね。中井教授が使ったSPring-8は精度が悪くてデータは使えないけど、科警研の生データは河合潤博士も「信用できる」としているわ。
【筆者注】河合潤博士やGeminiによると、SPring-8は、物質のどんな小さな原子も見つけだす「感度」は世界レベルで凄いけど、それがどれぐらい含まれているか測定する「精度」は意外と悪いそうです。剛速球だけどコントロールが悪い投手というイメージです。1998年時点なら「精度」はICP-AESのほうが上だったそうです。


林家ヒ素とカレーヒ素が「同じか違うか」という28年間つづく異同識別論争は、この科警研の生データをどう読むかの対立になっているのが再審請求審の現状やで。


これよ、ウワサの科警研生データ。Aから取り分けたのに、なぜかGのセレンSeとスズSnの濃度が上がっているのよ。液体でも粉末でも、取り分ける前より濃度は薄くなるでしょ。濃くなるなんて犬が逆立ちしてもありえないわ。

猫が土下座してもありえへんな。


Gが〝魔法の紙コップ〟と言われるゆえんよね。

魔法や。
異同識別は確定審一審では検証されたのか?

ここで疑問なんだけど、この「厳密な異同識別」は確定審一審では検証されてないのかしら?

されてへん。

されてないの?

されていたら判決文に書いてあるはずやが、なんも書いてへん。確定審一審では、弁護団は中井教授のSPring-8鑑定は追及したが、科警研のほうはほぼノーマークだったみたいやな。

やっぱりSPring-8閣下が注目されたのね。

いまでこそ河合潤博士がくわしく追及してくれているが、当時は弁護側には分析化学の専門家はおらんかった。厳密な異同識別論争は難しかったと思うで。
それに、当時の弁護団としては、AとGは同じでも構わないという認識だったんや。当時の弁護団の山口健一弁護士も2025年のインタビューで言うてはる。

和歌山では同じメーカーのヒ素が売られているのだとしたら、ヒ素の組成が同じでも不思議はないし、証拠価値も低い。理屈としてはもっともよね。
でも、当時の弁護団のいう「同じ組成」という考えが、じつはすでに検察側の土俵に乗ったものだった、ようは中途半端な異同識別だった──ということかしら?

そういうことや。せいぜいこの2つレベルの「同じ組成」「酷似」という認識だったわけや。



AよりGのほうが微量元素の濃度が上がっているという矛盾までは考えが及ばなかったのね。
「隠蔽しました……」。科警研が自白した対数レーダーチャート

そしてこれが、科警研の生データを基にプロットした河合潤博士のレーダーチャートね。



正六角形を維持しているということは、各元素の濃度の比率がAと同じということや。つまりAから取り分けたことが分かると。
スモールライトを当てたら頭も腕も足も同じ比率で小さくなるのと同じや。

これ以外の描き方ってあるの? というぐらい明確なレーダーチャートよね。これが科警研の手にかかればこうなっちゃうのよ、対数によって。

どれだけ作為に満ちているか、比較するのも虚しいほどだわ。

「鑑定不正」p68によると、第一次再審の大阪高裁の再審請求審で、この対数表示について弁護側から不正だと追及された科警研は、「重大な隠蔽があったとは言えない」と回答したらしいで。
2018年3月8日付で(科警研の)瀬戸副所長は「元素プロファイリングの検査結果をレーダーチャートにおいて対数表示することについては、重大な隠蔽があったとは言えない」と回答した。重大ではないとはいえ、隠蔽を認めたのだ。/河合潤「鑑定不正」p68

科警研の幹部さん、かなり苦しい釈明ね。

まあ少しでも良心があれば、こんなレーダーチャートでOKなんて言えるわけないわな。
G濃度上昇に対する浅見決定の3つの(的はずれな)反論

でも、問題の本質はやっぱり生データなのよね。裁判所は、濃度が上がっている矛盾について反論しているのかしら?
セレン、スズ、アンチモン、鉛、ビスマスの5つの元素は、製造時から原子レベルで均一に混ざっている元素だから、後天的にどこかから添加されたという言い訳は通用しないわ。だから本当ならすでに「詰んでいる」のだけど。

まあいつもの官僚答弁や。正面からは反論でけへんから、話を逸らして逃げているで。濃度が上がっていることに対する浅見決定の反論はこの3つや。
- A〜Eのヒ素は5回計測して平均もとっているが、Gは微量すぎて1回しか計測していないため、数値のバラつきが大きくなっても不自然ではない
- Dもセレンだけかなり濃い。なのでGだけの現象とはいえない。
- ユークリッド距離法の計算の結果、AもGも同種とみていい
①「Gだけ1回しか計測していない」

チラ見でええで。

ばらつきが大きくなっても不自然ではないと判示しているが。

①はたとえば、マラソンでA〜E選手は5回走ってタイムの平均をとったのに、G選手は1回しかタイムを測ってないという話ね。たまたま極端なタイムが出ただけじゃないかと。

しかし、A〜Eのヒ素の「5回」というのは「5ヶ所」という意味らしいで。A〜Eはたくさん残っているから、それぞれ5ヶ所からサンプルを取って分析したんや。

Gは微量やったから「1ヶ所」しか測定してへんが、「鑑定不正」p53によると、その1ヶ所を複数回測定しているから数値の信頼は高いそうや。

なるほど。A〜E選手は色んなコースを走った、G選手は一つのコースしか走ってないけど、そこを複数回走ったタイムだから信用できるということね。
それにしても、セレンとスズが元のAより濃くなっていることへの反論にはなってないと思うんだけど?

なってへんな。タイムがA〜E選手より良すぎたら、G選手だけアフリカ出身か? とか、増強剤でも飲んだんちゃうか? とか、他の選手との前提のちがいを疑わなあかんやろ。

そうよね。最重要証拠に致命的な欠陥があるかもしれないと新たに分かったんだから、少なくとも裁判官が勝手に判断していい話ではないでしょう?

法律畑の人間やからド文系もええとこやしな。それに、これはかんたんに再現実験ができるやろ。AからB′〜E′、G′として5つ取り分けて、同じようにICP-AESで分析してみればええんや。

なるほど。それでAの各元素より濃くなるものがあるかどうかを調べるわけね。

そうや。B′〜E′は5ヶ所、G′は同じ資料を3回ぐらい分析する。浅見決定の言うとおり、1ヶ所だけの分析やと複数回の分析の平均より数値がばらつくのはわかるが、元のAより濃くなるなんてことがあるのか? ということや。

面白そうね。犬の逆立ち、猫の土下座なんていう超自然現象が起きるのかどうか見ものだわ。
②「Dもだいぶ濃くなっているじゃないか」

浅見決定の2つめの反論や。チラ見やで。

ではなく、Gのセレンとスズが濃くなっているのもこうした誤差の一つだ、と判示している。

せやな。

いやだから、元のAよりも濃くなっているの? という話よね。

そういう話や。

どんなに優秀な機器を使っても多少の誤差がでるのは理解できるし、元素によって測定しやすさの「クセ」もあるらしいわ。
でも、Aから粉末を取り分けてAより濃くなることがあるのか? という疑問だけを言い続けているのだけど。

話を逸らそうとする裁判官の必死さだけは伝わってくるな。
③「ユークリッド距離法で計算した結果、違いはない」

3つめ。チラ見。


ユークリッド距離法……なんだか難しそうみに見えるけど、かんたんな話よね。

対数トリックと同じ臭いがするで。

そうね。複雑な計算をつかって、現場のあれと容疑者のそれが同じであることを「証明」したいと。河合潤博士によると、「ユークリッド距離法」は科警研にはおなじみの異同識別方法ということよ。

犯人性が争われない裁判ならこんな程度でええかもしらんが、ガチで犯人性を争うなら大雑把すぎて使いものにならへんという証拠能力やな。

上の「Aだけ1回しか─」と似ているけど、ようするにこういうことよ。
A〜E選手の5回のマラソンのタイムの平均は2時間30分〜40分だった(資料内距離)。G選手が1回だけ走ったタイムは2時間20分だった。これだけ見れば、弁護側のいうとおりG選手だけ有意に「ちがう」。
けど、すべてのタイムを特殊な計算で指数化したら「6以下」に収まるから(資料間距離)、A選手とG選手は同じ実力とみなすことができる、と。

はあそうでっか。としか言いようがないな。

「6以下」だから同じだ、なんて言われてもね……。区分けをもっと細分化したら「別物」になるんじゃないの? まさにそのミクロな違いの話をしているのに、大雑把すぎるわ。

大雑把すぎるな。

そもそもこれも、Aより濃くなっていることの説明になってないでしょう!?

なってへんな。

これは浅見コートの「敗北宣言」と考えていいのかしら?

ええと思うで。回答になってへんし。
浅見コートが空想でつくりだした「謎の容器」

上記のほかにも、河合潤博士は第一次再審の和歌山地裁に意見書を山ほど提出しているのよね。
私が説得力を感じたのは、AとBには微量元素のバリウムがなかったのに、C、D、E、Gにはバリウムが含有されていた、これはA≠Gの証拠だ、という主張よ。

あれな。Aにあった元素がGには「なかった」というなら、紙コップGのヒ素をカレー鍋に混入したときに全部入って紙コップには残らんかったんやろ、とも思える。

が、Aになかった元素がGに「あった」というのは説明がつかへん。そのバリウムどこから来たんや? やっぱりGはA由来ではないんちゃうか? という話になる。

そうなのよ。じゃあC、D、EからGに取り分けたのかといえば、それはヒ素の濃度からしてあり得ないと。これも、取り分けたのにGのほうが濃くなっているものね。

この時点で「詰んでる感」が満載やで。

私もそう思うわ。でも浅見決定はなんて反論してきたかというと……。

してきたかというと……。

A〜F以外に見つかってないヒ素入り容器があって、そこにバリウムが入って、その後に紙コップに取り分けたんだろうなんて言い出したのよ!



ほんまに書いてあるしな。裁判官というのは空想で判決を書いてええらしいな。

こんな空想が許されるなら裁判なんて必要ないじゃない!

ほんまやで。「なんでもあり」や。

これにはさすがに弁護団も驚いていて、YouTube動画の解説でこんな判示は「異例だ」と批判しているわ。

プロの法律家がみても驚きの判断やったと。「法」と「証拠」に基づいて判断するはずの裁判官が、都合がわるくなったら「空想」に基づいて判断したんやからな。

しかも上記の浅見決定にある、A〜E以外の「謎の容器」を思いついた理屈もまったく理解できないんだけど。文章を平易にすると、
確定判決は、紙コップGのヒ素がA〜Fのいずれから小分けされたかを特定していない。よって、A〜Fのヒ素が小分けされてA〜F以外の容器に保管されたのちにGに入れられてカレーに入った可能性が否定されてないといえる。
って、何を言っているの?? 確定判決にはたしかにA〜Fの「いずれかの亜砒酸を、本件青色紙コップに入れて」と書いてあって、どれとは特定はしてないけど、

文字どおりA〜Fのどれかを紙コップに入れたとしか解釈できないでしょう? なんで別の容器が登場するの? 論理が飛躍しまくってない?

飛躍どころか断絶って感じやな。石塚弁護士の説明によると検察官はそんな主張はしてへんそうから、裁判所の独自の空想やで。

だいたい「可能性が否定されていない」ってなんなの! それ言い出したら、AとGが別物である「可能性も否定されていない」し、夏祭り会場でヒ素が混入された「可能性も否定されていない」じゃない。自分が反論できなくなったときだけ使うなんてご都合主義もいいところだわ。

浅見コートの3判事がヘンなカレーを食べて頭がおかしくなった可能性も否定されてへんで。


しかもよ、1000歩ゆずってこの決定文が事実だとしたら……。

事実だとしたら……。

青色紙コップの中に135gあったヒ素をバサッとカレー鍋に混入して29.1mgまで減っていたというんだから、全体の0.02%、5000分の1よ!?

紙コップの前の「謎の容器」にバリウムがどうやって混入したのか、「環境からの汚染等」としか書いてないから分からないけど、そのバリウム込みのヒ素から紙コップに取り分けてバリウムが残る確率は5000分の1ってことよ?

5000分の1の確率はなかなか起きへんで。青色紙コップGのヒ素はもともとバリウムを含むヒ素やった、つまりAとは別のドラム缶由来であると考えるのが自然やろな。

AとBからはバリウムを検出しなくてC〜Gからは検出したのはSPring-8による鑑定だけど、この前提については争いはないわ。

ないな。つまり検察、裁判所側は有罪を維持したいならこの矛盾についてきっちり合理的な説明をせなあかんということや。

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