
ところでカレーマン、事件当初の「青酸カレー事件」の青酸(シアン)はどうなったの?

う〜ん。

裁判では、カレーに入れられた毒は「ヒ素だけ」になっているわ。シアンは話題になっていないわね。

ヒ素だけとされているが……それとは矛盾する証拠もあってやな。

それとは矛盾する証拠ですって? そんな証拠が見つかったら眞須美さんは即無罪よ?
自治会長だけシアンが検出された〝理由〟

そうやねん。しかし、たとえば中日新聞のこの記事なんやが。
和歌山県警は、事件翌日の七月二十六日、同県警の科学捜査研究所で、死亡した谷中さんの血液や胃の内容物から青酸化合物が検出されたとして、死因を「青酸中毒」と断定。(略)
残る三人の体内からは青酸化合物が検出されなかったため、捜査本部は死因を「青酸中毒の疑い」と発表していた。
その後、科警研で精密な鑑定をした結果、谷中さんの血液や、死亡した林大貴君(10)の食べ残しカレーなどから青酸化合物が検出されたが、ごく微量で自然界に通常から存在する程度と判断された。/1998年8月21日 中日新聞

実はシアンは入ってなかったことが判明したとかで、死因を変更するという記事ね。引用部分は、シアン中毒と判断した経緯をふり返っているところ。

なんか気づかへんか?

え〜? 科捜研が、7月26日に自治会長(谷中氏)からシアンを検出した。27日は他の3人からシアンは検出されなかった──。

されなかった。

科捜研は同じ方法で検出しているはずよね。それで一方は検出できてもう一方は検出できなかったということは、両者の違いがわかったということだから、検出の方法は正しかったんじゃない? と思ったわ。

せやな。鑑定方法がまちがっていたなら、検出されるにしろされないにしろ、26日も27日もおなじ結果になるはずや。

シアンはヒ素なんかと違って分解が早い、つまりすぐに溶解してしまう物質よ。科警研が和歌山入りしたのは7月29日だから、そんな時に「精密な鑑定」をやっても遅いわ。「自然界に通常から存在する程度」になるのはあたりまえよね。

せやな。記者は科警研の鑑定結果を重視しているが、シアンの分解の早さを知らなかったんやろな。

シアンは空気に触れるだけでも分解が始まってベトつく物質なのよ。それがカレーという液体に入ったんだから、7月26日と27日の1日ちがいでも大きいはずよ。その間にシアンが分解しきった可能性もあると思うわ。

まさにその可能性を示唆する情報がこれや。
(和歌山市保健所の)木下所長は「青酸化合物の毒性は体内に入ってから十九時間程度で薄れてくるとされる。容体が急変した例もあったので楽観はできないが、今後は次第に回復に向かうのでは」と話した。/1998年7月28日 読売新聞大阪朝刊

シアンは「体内に入ってから19時間程度で薄れてくる」ですって? 住民がカレーを食べたのが7月25日の午後6時ごろだから、そこから19時間後というと26日の午後1時ね。


自治会長の司法解剖がいつだったかはわからんが、26日の午前中やとすると?

自治会長だけシアンが検出されたことの説明がつくわ。26日午後1時まではシアンは残っていた。午後1時をはるかに過ぎた翌27日にはシアンは分解しきっていた……。

しきっていた。

そう考えると、カレー鍋に「シアンは入っていた」ということになるわね?

なるな。

少なくとも状況証拠にはなるわね。

なるな。

26,27日の科捜研のシアン検査の方法が気になるわ。どういうやり方をしたのか。

再審請求審で裁判官を説得して、証拠開示の指示を検察にだしてもらわなあかんな。
「ヒ素だけ」にしたい動機が〝ありまくり〟の警察

でも科捜研といえば、シアン誤検出という大失態をやらかしたとされるところよね。

7月26日の午前1時ごろから、カレーを食べた住民の吐瀉物を検査して、シアンを検出したとし、午前6時ごろに各病院に電話した。

しかし8月2日に科警研がヒ素を発見し、致死量の何倍ものヒ素が混入されたことが判明した。で、科捜研のシアン検出は誤りだったとされた。

科捜研は、裁判になってから誤りを認めたのよね?

この記事やな。科捜研の最若手が出廷して、ミスだったと初めて認めたんや。
和歌山県響科学捜査研究所の研究員(28)が証人出廷した。検察側主尋問で研究員は、事件発生直後に「被害者から青酸化合物が検出された」とした鑑定方法に誤りがあったことを認め、「ミスと言われても仕方がない」と証言した。県警側が公の場で鑑定ミスを認めたのは初めて。

でもこのミス自白は、「ヒ素だけ」にしないと眞須美さんを有罪にできないからそう証言しただけでもあるのよね。林家にあったのはヒ素だけでシアンは関係ないから。

そうや。判決文にもその「検査ミス」のメカニズムが書いてはあるんやが。


警察は「ヒ素だけ」にしたい動機がありまくりなんだから、本当にミスだと思って証言している保証なんてないわ。

せやな。だいたい「チオシアン」とやらの誤検出やとしたら、7月27日解剖の3人から検出されなかったことの説明がつかへんで。

そうよ。この3つとも科捜研は同じ方法で鑑定したはずだもの。
- 7月26日未明──夏祭り参加者の吐瀉物
- 26日(午前?)──自治会長の胃内容物と血液
- 27日──3人の胃内容物と血液

やっぱり科捜研の鑑定方法を実際にみてみないと、「ヒ素だけ」かどうか断定はでけへんな。
カレーの味

カレーの〝味〟や。


事件直後の各紙が報じているとおり、ヘンな味がしたのよね。犯行機会の記事では、直前混入の状況証拠として扱ったわ。

ヒ素は「無味無臭」というのが一般常識なんや。

ヒ素は昔から毒殺の定番アイテムだものね。食べ物にいれて味が変わったら気づかれて使えないから、無味無臭。

ワイもそう思っていたんやが、「ヒ素だけ」で食べ物の味が変わるケースを2つ知ってから、
「ヒ素は無味無臭なのだから、カレーの味が変わったのは他の毒物が入っていた証拠だ」
というストーリーには留保をつけるようになったんや。

ヒ素だけで食べ物の味が変わったケースが2つもあったの?

なるほど……ブラジルの事件は、小麦粉にヒ素を混ぜてつくったケーキを食べさせた。実際に「ヒ素だけ」で「奇妙な味」がしたと。
「鑑定不正」のほうは、ヒ素の化合物の亜ヒ酸を水に溶かすと水素イオンが出て酸性側にかたむく、つまり酸っぱくなるというメカニズムね。


まさに河合潤博士のいうとおりなわけね。

そういうことや。しかしまだわからへんで。
カレー鍋には約20㍑のカレーが入っていた。そこに135gのヒ素を入れた。1時間ほど混ぜた。
これでカレーの味がどうなるかの再現実験はまだだれもやってへんねん。

そこで登場するのが、食べ物の味を数値化してくれる機械ね。酸味、渋み、塩味など8種類の味覚を測定できるわ。ヒ素を混入する前のカレーとあとのカレーの数値を比較することで、再現実験ができるけど。

なかなかそこまでの機運が高まらへんというのが現状や。

でも結果はどうあれ、面白そうよね。



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