ヒ素は「稀少」ではなかったから無罪

ヒ素の異同識別鑑定
カレ子
カレ子

ねえカレーマン、有罪の最大の根拠は、ヒ素の「同一性」なのよね? カレーのヒ素と林家のヒ素が「同一」だったと。

カレーマン
カレーマン

まあ、そうやな。

カレ子
カレ子

「まあ」ってなによ。カレーマンはそう思ってないの?

カレーマン
カレーマン

いや、「あれ」と「それ」が「同一」とか言われても、それが珍しくないものなら証拠価値ないやろ?

カレ子
カレ子

ああ……たとえば、現場の血痕と容疑者の血液型がA型で「同一」であっても、A型の人なんていくらでいるから、犯人特定にはあまり意味がないってことね?

ヒ素のその「同一性」は希少なのか?

カレーマン
カレーマン

そういうことや。「同一性」という証拠は「希少性」があって初めて成立するってことや。

カレ子
カレ子

たしかに、指紋やDNA型ならその人固有のものだから「激レア」だけど、ヒ素に含まれる「微量元素の組成」といわれても、希少なのかなんて分からないわね。

カレーマン
カレーマン

せやろ。で、カレー裁判は、第一次再審で、有罪の根拠になっていたヒ素の「希少性」が崩れたんや。

カレ子
カレ子

えっ、そうなの? じゃあ、カレーのヒ素と林家のヒ素が同一であっても意味ないってことになったの?

カレーマン
カレーマン

本来はそうやで。

カレ子
カレ子

じゃあ無罪になってもおかしくないじゃない。

カレーマン
カレーマン

「でも、同じA型じゃないか、怪しいじゃないか」と叫びつづけているのがいまの裁判の認定やで。

カレ子
カレ子

なにそれ? ヘンな裁判官ね。

「希少性」が崩れても「同一性」を叫びつづける浅見決定

カレーマン
カレーマン

2017浅見決定の総合評価(結論)を見てもらおか。赤傍線のとこやで。

2017浅見決定の「総合評価」(第一次再審・和歌山地裁)
カレ子
カレ子

「微量元素の構成が酷似」……「組成上の特徴を同じくする」……「組成上の特徴が一致」……「組成上の特徴が合致」……。同じことが6回も書いてあるわ。しつこくない?

カレーマン
カレーマン

せやろ。弁護側の新証拠によって、裁判官は、検察側のいうヒ素の「希少性」を否定せざるを得なくなった(後述)。

でも有罪はキープしたい。そこで、「同一性」は崩れてないぞ、同じA型じゃないか、引きつづき怪しいじゃないか、と裁判官が訴えているところや。

たしかに、自分の判断に自信がない人が必死になっているように見えなくもないわね。

バケツにあいた穴から

カレーマン
カレーマン

それに、一般社会でヒ素が「希少」だということも、しつこいほどくり返しているんや。河合潤博士が「鑑定不正」p46で書いてはるで。

河合潤「鑑定不正」(日本評論社)
カレ子
カレ子

ほんとだわ。なんだか、バケツに穴があいて水が漏れるのをあわてて防いでいるみたい。

カレーマン
カレーマン

ほんまにそんな感じやで。裁判官によっては、ここで無罪をだす人もいたと思うで。

カレ子
カレ子

で、検察側のヒ素の「同一性」と「希少性」って、どんなものだったの?

「製造段階において同一」とアバウトにいわれても

カレーマン
カレーマン

ひと言でいうと左のスペクトル(グラフ)や。林家のヒ素A〜Fと紙コップのヒ素Gの微量元素の組成が「同一」だったというわけや。

まあ判決文では「同一」と断定はせずに「酷似」と書いているけどな。

林家のヒ素A〜Fと紙コップGのスペクトル(右の写真のA〜Gに対応)
林家のヒ素A〜Fと紙コップGの写真。AとGが同じか違うかが争点だ。
カレ子
カレ子

左のスペクトルは、どうやって分析したの?

カレーマン
カレーマン

これは有名なSPring-8の分析や。

ヒ素でも砂糖でも小麦粉でもええんやけど、蛍光X線を照射すると、その物質を構成する元素がわかって、こういうグラフも出してくれるんや。

カレ子
カレ子

AからGまでそっくりなグラフね。これなら「同一」とされたのもわかるわ。

カレーマン
カレーマン

この他に科警研と他の学者と計3つの鑑定があるんやけど、判決文を読むと、中井鑑定をいちばん重視していたのが分かるんや。

3つの鑑定の結論は、A〜Gが「製造段階において同一である、すなわち、同一工場で、同一原料鉱石を用いて、同一工程で、同一時期に製造された」ということやけど、それも中井鑑定の文章やしな。まあ「SPring-8様」の権威にすがったのもあるやろな。

カレ子
カレ子

「製造段階において同一」ってどういうこと? みんな同じ場所で製造されたってこと?

カレーマン
カレーマン

そういうことや。ヒ素に先天的に含まれている4つの微量元素の組成を見て、アンチモンとスズが同じぐらいの量でビスマスがその数倍あって、かつモリブデンも含む、というのが酷似していると判断したんや。

で、同じ工場で同じ鉱物を使って同じ時期に作ったものだからここまで似ているのだ、と判断されたんや。

上のスペクトルを簡単に描けば、こういうグラフや。

カレ子
カレ子

ず、ずいぶんテキトーなグラフだけど、ようするにこういう分析結果なのね。
アンチモンとスズが同じぐらいの量でビスマスがその数倍あって、かつモリブデンも含む
生まれつきの特徴を比較して共通性をみたと。で、この組成って珍しいの?

カレーマン
カレーマン

検察側によると、和歌山や大阪のヒ素を61こ集めてきて分析して比較したところ、同じ組成のヒ素はなかったってことや。

カレ子
カレ子

じゃあ珍しいのね。希少性があるんだから、証拠価値は高いんじゃないの?

カレーマン
カレーマン

ところがやな。

カレ子
カレ子

ところが?

「別の日につくったヒ素でも同じなんちゃうの?」

カレーマン
カレーマン

「同じ工場で同じ鉱石を使って同じ時期に製造された」「製造段階において同一」とアバウトにいわれても、別の日に作ったヒ素でも同じになるんちゃうの? という疑問がわくやろ。

カレ子
カレ子

ああ……そうか。製造日が1週間ぐらい違っても同じ組成になるんだったら、証拠価値は低くなるわね。

中国の工場で作られる50kgヒ素入りのドラム缶たち(イメージ)。ここのヒ素はおそらくすべて「同じ組成」だろう。希少でもなんでもないのだ。
カレーマン
カレーマン

そうや。だからそこをカバーするために、検察と中井教授は「別の日に作ったヒ素は組成が違う」という鑑定を作ったんや。そうして希少性をギリギリまで高めようとした。裁判が始まって半年もたってからのことや。

カレ子
カレ子

なんだかテキトーな展開ね。どんな鑑定だったの?

カレーマン
カレーマン

結論からいうと、河合潤博士がまとめたこの表や。検察は、愛媛県の民間の製錬工場から、製造日ごとに5個ずつ、計25個のヒ素をもらってきたんや。

この25個を中井教授がSPring-8で分析したんや。

このヒ素はモリブデン、スズ、ビスマスは含まれてなかったから、アンチモン(Sb)濃度(微量元素の組成)だけを分析しているで。

カレ子
カレ子

2月3日から3月19日まで5個ずつに分けてあるわ。

カレーマン
カレーマン

で、検察と中井教授の主張どおりなら、同じ製造日のヒ素は5個ともアンチモン濃度が同じはずやけど、けっこうバラバラやろ。

カレ子
カレ子

バラバラね。ていうか、2月の3日と22日に同じ120ppmがあるわよ。製造日が違うのにアンチモン濃度(微量元素の組成)が同じじゃないの。

中井教授の「縦軸トリック」

カレーマン
カレーマン

その通りや。でも中井教授は法廷で、なんでか知らんけど25個とも製造日が違うという勘違いをして、ほら製造日が違ったら組成も違うでしょ? と説明したんや。有名な「縦軸トリック」を使ってな。動画で弁護団が解説してはるで。

カレ子
カレ子

ヒ素ごとにアンチモン濃度が違うとウソを言うために、縦軸を操作してアンチモンの量を違うように見せかけたの? ひどいインチキね!

カレーマン
カレーマン

ほんまやで。この鑑定によって、製造日が違ったら組成も違う、つまりA〜Gは同じ日に製造されたから組成がここまで酷似しているのだ、という「希少性」が証明されてしまったんや。

カレ子
カレ子

なるほど……「同一性」と、その証拠価値を保証する「希少性」か。

で、それからどうなったの? 第一次再審になって、中井教授のインチキを河合潤博士が見破ってくれたの?

ヒ素鑑定は「証明力が減退した」

カレーマン
カレーマン

そうや。ここで説明してきたことを新証拠として提出して、浅見コートも認めざるを得なくなって、こう書いたんや。

2017浅見決定の「総合評価」(第一次再審・和歌山地裁)
カレ子
カレ子

すっごく分かりにくい文章だけど、
A〜Gと組成が酷似するヒ素が他に存在しない、つまり「製造段階において同一」であるとする点は「相当性を欠く」。よって3つの鑑定の「証明力が減退した
とハッキリ書いてあるわ。

カレーマン
カレーマン

そういうことや。林家と同じ組成のヒ素はよそにもあるということになったんや。

カレ子
カレ子

それを受けて、確定審の根幹が揺らいだとあせった裁判官が、でもスペクトルは酷似しているぞ! ヒ素は希少なんだぞ! と何回も叫んだわけね。

カレーマン
カレーマン

まあ確定審の判決が改善されたのは、今のところココだけなんやけどな。しかし大きな一歩やで。

カレ子
カレ子

カレーマンも言っていたように、ここで再審開始を出す裁判官もいたかもしれないわね。

実際にヒ素は希少ではなかった⁉︎ ドラム缶Qの発見

カレ子
カレ子

それにしても、上で出てきた、61個のヒ素を分析して林家のヒ素と比較したけど同じ組成のものはなかったというのは大きいわね。

カレーマン
カレーマン

せやな。当時の弁護団も反論が難しかったやろな。

カレ子
カレ子

「製造段階が同じ」が否定されて、「同じヒ素はよそにもある」となったとはいえ、じゃあどこにあるんだ? 「理屈上ある」というのは分かるが、現実問題ないじゃないか、と裁判所が言いたくなるのも分からないでもないわ。

カレーマン
カレーマン

まあな。ていうか、同じ組成のヒ素は、科警研が当時、分析していたんやで。

カレ子
カレ子

えっ、そうなの? 裁判には出ているの?

カレーマン
カレーマン

出てへんねん。検察は自分に不利な証拠は出さんでもええからな。
科警研が分析していたヒ素は「ドラム缶Q」や。河合潤博士が「鑑定不正」で書いてはるで。「Q」のも博士の命名やで。

林家のヒ素A〜Fと紙コップのヒ素Gが同一とされた中井鑑定のスペクトル。検察側はドラム缶Qのヒ素も分析し、同一であることを確認していたが、林家ヒ素の希少性を維持したいがために隠蔽していた。
カレ子
カレ子

あ、これの「ドラム缶Q」のことだったのね。たしかに、アンチモンとスズが同じぐらいでビスマスがその数倍、モリブデンも含有しているわ。林家のヒ素と同一ね。

カレーマン
カレーマン

そうや。検察側は、和歌山や大阪から61個のヒ素を集めてきて、分析して、林家のヒ素と同じ組成のヒ素はなかった、だから林家のヒ素はめちゃめちゃ希少だ(つまり証拠価値が高い)と結論したのにな。

カレ子
カレ子

そう言いながら、同じ組成のヒ素があるのを知ってて隠していたのね。とんでもないインチキだわ!
このドラム缶がどこにあったかは分からないの?

カレーマン
カレーマン

そこまでは分かってへん。第三次再審(2024年2月〜)で明らかになってほしいところや。

カレ子
カレ子

このスペクトルはどこにあったの

カレーマン
カレーマン

中井教授が2005年、科警研が分析したデータを引用して、学会誌に論文を書いたらしい。それを河合潤博士が見つけたんや。「鑑定不正」p40から書いてはるで。

カレ子
カレ子

なんだか、斎藤元彦氏が再選された2024兵庫県知事選で、公選法違反なのを気づかずに自分の協力をnoteに書いた女性社長みたいね。

カレーマン
カレーマン

まさにそれやで。

カレ子
カレ子

とまれ、2017浅見決定で「製造段階が同一」という希少性が否定されたうえに、国内でも、林家のドラム缶Aのほかにドラム缶Qが出てきて、さらに希少性が低くなったわけね。

カレーマン
カレーマン

そういうことや。しかも、ドラム缶Qの存在が明らかになったことによって、中井鑑定自体が否定される可能性が出てきたんや。

カレ子
カレ子

えっ、中井鑑定自体が丸ごと否定される? どういうことなの?

中井教授の「なんちゃって鑑定」

カレーマン
カレーマン

これも河合潤博士が見つけたんやけど、中井教授が2013年にこんな論文を書いてるんや。

数値による厳密な表現をとらず,だれがみてもわかる上記1) 2)のゆるい条件で,事件に関係した亜ヒ酸を特徴付けることができたので,異同識別には十分であると筆者は考える.

もちろんそれができたのは,類似した特徴を与える亜ヒ酸が当時の国内には,他に流通していなかったからである.

学術論文では河合氏が指摘されるように普遍性の点で不十分かもしれないが,鑑定書では「当時日本に流通していた他の亜ヒ酸に同一の特徴をもつものがなければ」十分である.
和歌山毒カレー事件の法科学鑑定における放射光X線分析の役割

カレ子
カレ子

「上記1)2)のゆるい条件」って、例の「アンチモンとスズが同じぐらいでビスマスがその数倍、モリブデンも含有」のこと? 

カレーマン
カレーマン

そうや。中井教授によると、本来はそんなゆるい異同識別じゃ不十分らしいな。

カレ子
カレ子

本来はダメだけど、似てるヒ素が流通していなかったら、まあこんなんでもええやろ、と?

カレーマン
カレーマン

ひき逃げ事件で現場の遺留品から「外車」と判明した、貧乏人が多い地域で、「外車」といえばAさんちぐらいしかないから犯人はAさんっていうような話や。

なんなのそれ。ようするに「なんちゃって鑑定」じゃない? 国内に似ているヒ素がないのが分かっているんだったら、鑑定する意味自体がないじゃない。

カレーマン
カレーマン

河合潤博士も同じ批判をしてはるで。

つまり検察側は、ドラム缶Qを科警研に分析させて、林家ヒ素と同じだったからあわてて隠蔽し、中井教授には、国内に同じヒ素はないからとウソを言って「ゆるい」鑑定で済まさせたってことじゃない?

カレーマン
カレーマン

そういうことや。「類似した特徴を与える亜ヒ酸が当時の国内には,他に流通していなかった」なんて中井教授がわかるはずないから、検察が教えたんやろな。

林家ヒ素の「希少性」を維持するために検察も必死だったのね。

カレ子
カレ子

ふつうに考えれば、その60缶のなかに、健治さんちのドラム缶Aと同じ組成のヒ素があるんじゃないの?

同じメーカーのヒ素と比較しないと意味ないのに。裁判官のサボタージュ。

ヒ素の希少性を隠蔽したい裁判官。そうして言い訳のように他にもあるだろうけれど、と書いた。

ヒ素の大量流通を話を逸らして否定した浅見決定

「最大の争点」とされてきたヒ素鑑定

カレーマン
カレーマン

ほんまにな。ヒ素の異同識別鑑定は、確定一審からずっと「最大の争点」だったんやしな。

争点
カレ子
カレ子

そうよ。2009最高裁判決でも一番の証拠にされているのに。

最高裁 判決
カレーマン
カレーマン

裁判官には、再審開始をだす勇気を持ってほしいで。

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