
ねえカレーマン、和歌山カレー事件でカレー鍋にヒ素が混入されたのは、ガレージか夏祭り会場かどっちかなのよね?


そうやで。カレー鍋は、7月25日の朝から午後3時まではガレージ、それ以降は夏祭り会場にあったんやで。

カレー判決は、最高裁判決(3)の「犯行機会」がラスボスだっていう話をしたけど、ガレージではなく、夏祭り会場でヒ素が混入された可能性はないの?

あるで。
「自治会住民が混入した可能性は『ほとんど』ない」

あるの? 本当?

ほんまや。ワイは嘘は言わへん。

どういう可能性なの? ぜひ教えてちょうだい。
林眞須美先生は〝即無罪〟?

ていうか、裁判官自身が、夏祭り会場で混入された可能性も〝ないことはない〟と書いているんや。

裁判官自身が? それ、眞須美さんが即無罪ということよ? そんなこと書くはずないじゃない。

ほんまのことや。確定一審判決の第三章「亜砒酸混入の機会」のまとめを見てみよか。


「自治会住民が混入した可能性もほとんどないと認められる」……。

「ほとんどない」、つまり「少しはある」という意味や。

え〜? たしかにそうだけど……断言してもいいけどしにくいときに修辞的に使われる程度の意味なんじゃないの?

それがちゃうねん。順を追ってみていくで。第三章では、いつヒ素を混入するタイミングがあったかを4つに分けて検証しているんや。
- 8:30〜12:00 ガレージでカレー調理
- 12:00〜13:00 ガレージで見張り(カラスや猫対策)
- 13:00〜15:00 ガレージで見張り
- 15:00〜18:00 夏祭り会場

眞須美さんが見張りをしたのは❷の12:20から13:00ね。

そうや。

カレー調理に関わった主婦、その他の住民、眞須美さんのお子さんたちも証人に呼びまくって調べた結果、判決は、眞須美さんの見張りの時間しか混入の機会はないと結論した。


うい。

でもカレーマンは、カレー鍋が夏祭り会場に運ばれてからお祭りが始まるまでの❹の時間にも混入する機会は少しはあったと裁判所は判断した、とみている。
夏祭り会場で混入機会はまったくなかったのか

そういうことや。判決文にそう書いてあるし、そもそも、夏祭り会場で混入する機会がまったくなかったなんて思えるか?

言われてみれば……そうよね。いくら人目があるといっても、特にカレー鍋に注目してる人なんていないでしょうし。

カレーのほかにおでん、ジュース、ビールもあった。催し物も、カラオケ、金魚すくい、スーパーボールすくい、当たり物くじもあったしな。

お祭りだものね。そんな状況なら、エプロンのポケットにヒ素を入れておいて、カレーをよそう時に掴んでふりかけるぐらい出来そうだわ。

なんならワイでもできそうやし、「まったく不可能」とまではふつう思わんやろ。

そうねえ……まあそこを許容したら有罪にできないわけだから、裁判官も必死だったのは想像できるわ。

とまれ判決文では、上記4つの時間帯に加えて、林眞須美先生の前後に一人で見張りをした3人の主婦についても検討していて、そこも含めてすべて、混入機会はなかったと結論しているんや。
- 午前中……「亜批酸が混入されたことはないと認めることができる」
- 林眞須美先生の前の人(A)の見張りの時……「亜批酸を混入したとは考えにくい」
- 林眞須美先生の次の人(B)の見張りの時……「亜批酸を混入したとは考えにくい」
- 林眞須美先生の次の人(C)の見張りの時……「亜批酸を混入したとは考えにくい」
- 夏祭り会場での不審人物……「亜批酸を混入した可能性はないに等しい」
- 夏祭り会場での自治会住民……「混入した可能性もほとんどない」

「ないと認めることができる」「考えにくい」「可能性はないに等しい」「可能性もほとんどない」──。❻の「ほとんど」だけやっぱり弱いわね。

こんな大事なところで「ほとんど」なんて副詞は付けたくなかったやろ。他のと同じレベルの断定の表現にしたかったはずや。
事件直後の新聞は「直前」の混入

❶❷❸❹は分かるわ。だって、カレーを食べる5時間以上も前に混入して放置なんてそれこそ「考えにくい」わよ。

そもそも事件直後の新聞はみんな「直前」の混入と書いていたんやで。その見方はヒ素でもシアンでも変わらんはずや。


そう考えるのが自然よね。で、❺もいいと思う。まとめの2枚目にもあるように、不審人物がいれば誰かが警察に話したはずよ。

ワイも異議なしや。問題は❻の自治会住民が混入した可能性や。ちなみに林眞須美先生は、夏祭り会場には氷とご飯を届けてすぐ帰ってはる。せやから「夏祭り会場で混入=犯人は林眞須美以外」は争いがないで。

自治会住民が混入した可能性は「ほとんどない」とする根拠が、まとめの2枚目の右段の上のほうにあるわ。大きく分けてこの2つね。
- ほとんどの時間帯についてカレー鍋付近に複数の住民がいたのに、アルミホイルの蓋を取ってヒ素を混入する行為はリスクが高すぎる
- ヒ素混入に使われた紙コップが入っていたゴミ袋は、主婦がガレージから会場に移したときに口をしばって、それ以降はゴミを入れることができなかったのだから、紙コップがゴミ袋に入れられたのはガレージである

ふむふむ。

❶はさっき言った通りよ。リスクがないとは言わないけど、バレずに入れるのがそんなに難しいとは思えないわ。

午後5時からカレー鍋を再点火してかき混ぜているから、アルミホイルの問題もクリアしているで。

❷はどうかしら。

ゴミ袋の中身を見てみよか。写真つきやで。
突然でてきた「紙コップが入っていたゴミ袋の移動」



このゴミでどれぐらいの嵩(かさ)になったのか知りたいわね。

満杯って感じではなさそうやな。それにこの表記やと、
静岡は,ゴミ袋の両端を持ってしばる形で口を締めている(静岡証言)
ヨコだけ1回しばったのか、タテとヨコと2回しばったのかが分からんな。

これをふつうに解釈すれば1回でしょうけど、それなら両脇に隙間ができるわよね。

できるな。紙コップぐらい入れられるで。

その中の「野菜屑在中」というビニール袋の口も、どんな風にしばってあったのか分からないけど、ゆるかったり、口をぐるぐる巻いただけだったら、ゴミ袋の中で一番上にあれば、口が開いたり隙間ができたりで、紙コップを握りつぶしてビニール袋の中にねじ込むことは可能じゃない?

実際、事件翌日の鑑識の写真をみると、紙コップはクシャクシャやしな。


こういう料理の共同作業なんかではよくあるけど、最後までゴミは出るものだから、勝手を知った主婦ほど、口は固くしばらないと思うわ。追加でゴミが出たときにほどく手間を考えちゃうから。

それもあるが、こんな重要な話をなんの検討も加えずに挿入するのは違和感があるで。通常その章のまとめに書くのは、章で膨大な文量をさいて検討したことをコンパクトにまとめた内容や。でもこのゴミ袋の移動は、第三章ではここにひとこと書いてあるだけや。


第三章のまとめを書いていて、夏祭り会場で混入できない根拠が弱いと気づいた判事さんがあわてて補強のために挿入した……?

そんな感じに思えてならんな。


こう見てくると、夏祭り会場で混入された可能性を完全に否定するのは苦しいわね。

その結果としての「ほとんど」とみるのが自然やろな。修辞的な意味とは明らかに違うで。

……ていうか、そもそも例の捏造の疑いが濃厚な青色紙コップだけどね。

そうやで。まあその話はここでは措くけどな。
裁判官の自白

その意味で裁判官は正直だったとも言えるわね。「ほとんど」を付けることによって「夏祭り会場で混入された可能性は完全には否定できません……」と自白したようなものだもの。

つまり無罪や。
夏祭り会場を否定した判断の背景にあったもの

しかしこの一審の判決文を書いた判事さんの脳内には、べつの記事で書いたヒ素の希少性もあったと思われるな。

ヒ素の希少性? ああ……夏祭り会場で混入ということは、眞須美さん以外の住民の犯行ということだから、林家と同じ組成のヒ素をだれかが持っていたことになると。

そうや。確定一審の段階では、1983年頃の中国の同じ工場で同じ時期に作られたヒ素という話やった。

そんな希少なヒ素が1998年の和歌山市の小さな地区に複数あったとは考えられない、という理屈ね。

その前提なら、判事の判断は分からんでもないな。でもそれは2017浅見決定でくつがえった。林家ヒ素の希少性は大幅に後退したで。

そうよ。同じヒ素をほかの住民が持っていてもおかしくないとなれば、夏祭り会場で混入というアナザーストーリーのリアリティが増すわ。

なんやけど、浅見コートは認めへんかった。

これが再審の壁ってことかしら……。
祭り開始15分前にだれもいなかった──和歌山市幹部の証言by読売

あとこれも見逃せないんやが、夏祭りが始まる15分ほど前に、会場には人がほとんどいなかったという証言があるんや。

あ、ツイッターXで見たことあるかも。和歌山市の幹部の話?

そうや。読売の8/2の記事や。
和歌山市園部地区の夏祭りで四人が死亡した青酸カレー事任で、祭りが始まる直前に会場を訪れた市幹部ら二人が「テント内のカレーなべのあたりでは、だれも見なかった」と和歌山県警捜査本部(和歌山東署)に証言していることが一日、わかった。祭り開始の先月二十五日午後六時より十五分ほど前で、カレーに対する監視の目が離れた「空白の時間」の可能性もあり、捜査本部は当時、見張り役を割り当てられた住民からも詳細に事情聴取を進めている。
証言によると、市幹部らは事件当日、園部地区周辺で開かれた四か所の夏祭り会場に車であいさつに回っており、三番日の同地区には午後五時四十五分ごろに到着。会場のテント前で出迎えた園部第十四自治会長の谷中孝寿さん(64)、同副会長の田中孝昭さん(53)(いずれも死亡)としばらく雑談を交わしたという。
捜査本部の事情聴取に対し、市幹部らは「仕事上、地域の行事に協力してくれている人が目に留まったら、相手が自治会の役員でなくても必ずあいさつするはず。しかし、会長ら二人としか、あいさつはしなかった」などと証言している。
捜査本部はこれまで、カレーを作った主婦や住民の目撃証言などを総合的に判断して、カレーのなべに青酸化合物が混入された時間帯は午後五時半から六時までの「三十分間」との見方を強め、この間に人目に触れずに犯行が可能な時間帯がなかったか、集中的に調べていた。
住民らの中には「なべのそばには常にだれかがいた」との証言もある。(1998年8月2日 読売新聞大阪朝刊)

「テント内のカレーなべのあたりでは、だれも見なかった」

「仕事上、地域の行事に協力してくれている人が目に留まったら、相手が自治会の役員でなくても必ずあいさつするはず。しかし、会長ら二人としか、あいさつはしなかった」

「カレーのなべに青酸化合物が混入された時間帯は午後五時半から六時までの「三十分間」との見方を強め」ている。

強めているで。
ヒ素を入れるチャンスは〝ありまくり〟だった?

これが事実なら、カレー鍋にヒ素を入れるチャンスなんて〝ありまくり〟じゃないの?

そうやし、この記事の8月2日という日付けが重要なんや。

8/2……あっ、科警研がヒ素を検出した日だわ。記事はそれより前ということね。

そうや。科警研がヒ素を検出した8/2以降、泉○典の「林家ヒ素詐欺」の自白を経て、警察とマスコミは林夫妻宅に疑いの目をむけていく。この読売記事はそのバイアスがかかってないから信憑性が高いんや。

市の職員が職務で出向いたときの話だから緊張感もあるでしょうしね。

それに新興住宅地やから、そもそも地域の行事とか面倒やなと思っていた住民は少なくなかったはずや。祭り開始直前でも閑散としていたのは納得やで。

だからカレーを夏祭り会場で食べずに家に持ち帰った人も多かったわけだし。それが被害を拡大させる一因になってしまったのだけど。
13:00過ぎの味見

味見や。

眞須美さんの見張りが終わった13:00以降に、住民がカレー鍋を味見して症状が出なかったのよね。証明されれば眞須美さんは一発で無罪よ。

一発やで。

でも、味見の話も犯行機会のカテゴリでいいの?

ヒ素をいつ混入できるかという話からは逸れるが、ガレージでの混入を否定するわけやから、広くみるとココでええやろ。
テレビ、朝日、産経が報じる13:00以降の味見

まずは有名なこの映像を出しておかんとな。

女の子は午後1時から2時半に舐めたと。眞須美さんの見張りのあとということは確かね。でもこれだと、東カレー鍋か西カレー鍋かが分からないわ。


せやな。そこでもう少し詳しいのが朝日新聞のこの記事や。


「それぞれを味見した」の「それぞれ」って、カレーの「大なべ二つ」のことよね。じゃあ東鍋も西鍋も両方味見したということだわ。ということは……

無罪や。

無罪よ。


さらに産経の記事もあるで。


「5人のうち子供を含む4人は正午過ぎにヒ素が混入された大なべのカレーを味見し」たですって? 13:00までは眞須美さんが見張りをしていたと裁判所は認定しているのよ?

だから、その「正午過ぎ」というのは「13:00以降」ということやな。昼ごはんのあとということやろ。

上の動画の女の子が味見したときと時間が合うわ。ようは眞須美さんが帰ったあと、ガレージに大人も何人か来て、味見とかしながらガヤガヤしていたということのようね。
判決文の決定的な矛盾

そしてここで確定一審判決のおどろくべき矛盾が明らかになるで。

え? なになに、何があったの?

これや。第三章「亜砒酸混入の機会」の第3「午後1時ころから夏祭りが始まるころまでの状況」のなかの文章やで。


13:00以降の見張りのときに「カレー鍋の蓋が開けられたことはなく」? なに言ってるの?? テレビは「1時から2時半」、朝日は「一時すぎ」、産経は「正午過ぎ」に味見をしたと報じているじゃない。

報じているな。

園部のみなさんは、鍋のふたを取らずに中身を味見できる特技をお持ちなのかしら?

それめっちゃ難しいで。

だったらまたまたインチキじゃない! 東鍋も西鍋も味見したとバッチリ報道されているのになんでしてないことになっているのよ。弁護団も裁判官もなんで指摘しないのよ。

その時間帯は不審者もいなかったしヒ素が混入された形跡もなかった、という意味で「開けられたことはなく」と書いたんやろうけど、味見があったことまで隠してしまって藪蛇になったな。

いい気味だわ! そもそも検察は味見のけんは隠したかったんでしょう。あるいは、これも警察が検察に送っていない可能性もあるわね。

検察側の隠蔽の意図はあり得るな。というのも、産経記事に「別の一人は夏祭り会場の空き地で(略)午後五時過ぎに口にしていた」とあるが、これは判決文に書いてあるんや。


自分で味をみようと舐めたのに味がしなかったというのも意味がわからないけど、夕方の味見はちゃんと書いてあるのね。ということは、午後2時ごろの味見は本当に隠したかったのかしら?

あり得るな。それか本当に警察が送ってないかやな。
再審請求の新証拠になるか?

再審請求でこれを新証拠として提出すれば無罪にならない?

もちろん弁護団も検討はしていると思うで。ただ、判決は、ヒ素がよく溶解していない場合は症状が出るのに10時間かかることもあると認定したから、夜のカレーを食べてない人の証言が必要になるんや。


なるほど。夜のカレーを食べてヒ素中毒になった人だと、昼のカレーと夜のカレーのどっちが原因か分からないものね。

判決文をみる限り、午後1時から3時までは8人の女性がガレージにいたことが確認できるで。

この時間にガレージで東カレー鍋を味見をして、かつ夜は食べてない人物を特定せなあかん。

一人ぐらいはいそうじゃない?

確定一審判決の資料に、夜にカレーを食べてヒ素中毒になった63人全員が載っているんやけど、そこに名前がない、つまり夜のカレーを食べてないのは静岡、島根、茨城b子、目黒の4人や。

じゃあ、その4人のうち昼のガレージで東カレー鍋の味見をした人を特定できれば無罪ってことね。

そうや。それにはこの主婦たちの調書を全部読まなあかんな。警察は味見のことも聞き取っているはずや。

ということは……再審請求の審理で、裁判長に申請して、検察側に証拠開示を指示してもらわないといけない。

そういうことや。ここで全国の再審弁護団が頭を悩ます〝証拠開示の壁〟に直面することになるんや。実質的に大正時代から変わってない刑事訴訟法の再審制度の改善が心の底から望まれるで。
アンケート
味や一皿全部の症状、嘔吐までの時間の違い

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